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犬が走り書きしたSSを置いたり、たまに何か書くそうです。
じぶん
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かうんたー
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※東方2次創作につき、作者の偏見独断希望補完が大量に含まれています。閲覧には注意を。そういう類に不快感を持たれる方は、お手数ですがブラウザの戻るボタンを。
読んだげる! という方はどぞ。


   ¢


「ちょっと通らせてもらうぜ」

紅魔館入口、門の前にて。上空より箒で飛来した魔理沙は地面に降り立ち、風で崩れた服装と髪を整え、門番の脇をわがもの顔で通り抜けようとして。

「あっ、駄目です! 駄目! 今日は絶対駄目です!」
「……何か、デジャヴだぜ」

両腕を広げ子供が悪戯を隠す様な仕草で、門番は珍しく仕事を全うしていた。いや、全うすると言うのはこの侵入者を直ちに追い返してこそなので未だにメイド長からのお仕置き範囲内だ。

「お、追い返せるかな……」
「何だって?」
「何でもありませんっ。とにかく、今回ばかりは通しませんよっ」
「ところで門番って、戦死して特進したら何になるんだ? メイド長?」
「言われてみれば……って、何で死ぬ前提で話をしてるんですか!」
「いや、わざわざ倒す位なら脅した方が早いかなって」
「今のが脅しですか。気付きませんでしたよ。それに、脅されようが倒されようが、私はここを通すわけにはいきませんのでね」

美鈴の眼差しに、魔理沙は尋常じゃない殺気を感じ取った。そもそも自分の前に立ち塞がった時点でいつもと違う事は分かっていたが、ここまでの覚悟を見せられては自分にも覚悟が無ければ通れないだろう。

「おぼえてやがれー」
「うわっ、何ですかそのやる気なさげな捨て台詞は」
「素直じゃないって事さ。そんじゃ、また来るぜ」

今し方降りた箒に跨った魔理沙は、とん、と地面を蹴った。跳躍に見合わぬ浮遊、やはり魔法使いなんだなと感心した美鈴は、侵入者を追い返せた事にホッと胸を撫で下ろした。――のも束の間。

「悪い、やっぱ気が変わったのぜ」
「なっ」

後方宙返り。にしし、と笑みを浮かべた魔理沙は逆さ吊りのまま美鈴をかすめつつ脇を突破し、内部へと侵入した。

「入っちまえばこっちのもんさ!」
「こら、駄目ですって!」
「ちょっと通るだけだ、安心しな!」
「――安心できないから、こうして追われているのでしょう?」
「わっ!?」

いきなり箒が沈み、足が地に着き土を抉った。魔理沙が慌てて振り返ると、すぐ目の前にメイド長の顔があった。

「止めて頂けますか、嘘つき魔法使いさん」

喉元に突き付けられるナイフに、魔理沙は歯噛みした。「ちぃっ」と唸り、着地する。諸手を挙げたのは、もはや何も抵抗はしないという意思表示だった。

「なんで今日に限ってこんな重警備なんだ?」
「それは……まぁ、その内分かるわ」
「?」

小首を傾げる魔理沙に、咲夜は「とにかく」と語気を荒げた。

「暫く紅魔館に近付くのはやめておきなさい。命が幾つあっても足りないわよ」
「……ったく、分かった。今日の所は引き揚げる」
「2度目は無いから」
「しないって」

やれやれと互いに肩を竦める。片方は箒に跨り、片方はそれを見届ける。地を蹴り今度こそ帰って行く魔理沙を眺め、咲夜は美鈴を手招いた。

「何でしょう、咲夜さん」
「後で魔理沙を呼びに行って欲しいの」
「はい?」
「これはお嬢様の頼みよ。私が指示を出したら、探して来て頂戴。いいわね」
「えっと、分かりました」

咲夜、いやレミリアの不可解な頼みに頭を悩ませる美鈴だったが、考えがあってこそだろうと自分を納得させ、門番という仕事に戻った。その時既に咲夜は屋敷に戻り、ある仕事の続きをしていたのだった。


   ¢


魔理沙が次に降り立ったのは、ひび割れ、剥がれ、年季を感じずにはいられない石畳の上だった。

「何か失礼な天の声ね」
「反応するなって」

跨っても飛べない竹箒で掃除をしている巫女は、何だかよくわからない悪態をついた。

「で、紅魔館に入れず暇になったあんたはどーして何もない神社なんかに来たわけ?」
「茶でも飲もうかと」
「お茶も無いわよ」
「じゃあな」
「ホントがめついわねあんた」

しょうがないなと溜め息をついた霊夢は、社の中に入り魔理沙を招いた。

「そこの炬燵に入ってなさい」と言い残し台所へと向かうその後ろ姿を眺め、魔理沙はふぅ、と落ち着いた声をもらす。やっぱり神社は落ち着くな、などと西洋の格好からして矛盾しまくりな言葉もついでに呟いた。
そういえばと、魔理沙は台所に向かって声をかけた。

「霊夢、チョコとか無いのか?」
「何でチョコ?」
「ほら、昨日はチョコの日だろ」
「あぁ、そんなのもあったわね。あ、この間のチョコ饅頭ならあるわよ」

そんな霊夢の受け答えに、魔理沙はつまらなそうにうな垂れた。

「ったく、これだから貧乏は……」

どん、と目の前に置かれた湯のみに口をつけ、チョコ饅頭を口に放り込み、お茶をすする。「ちょっと、炬燵布団で手を拭かないでよね」と霊夢に叱られるが、そんなのはお構いなしにガタガタと湯飲みを鳴らす。不満の表れだ。

「そんなにチョコが食べたきゃアリスのとこに行けばいいじゃない。お菓子作るの好きみたいだし、昨日の余りとかあるんじゃないの?」
「その手があったか!」
「ちょっと、待ちなさいよ! お賽銭位入れてきなさいよー!」

半分位残ったお茶と霊夢の怒声を残し、魔理沙は脱兎の如き勢いで空を駆けた。目指すはアリスの家。「期待で胸は膨らむが、腹は膨れないぜ」と呟き、寒空に黒い一筋の線を残す。


   ¢


「あぁ、妹様! それはボウルに入れてからでないと!」
「あははっ、お湯が茶色くなった! しかもあんまり甘くない!」
「まだ代えはありますが、限りがあるので慎重に作業なさってくださいね」
「フラン、ちゃんと咲夜の言うとおりになさい?」
「だって、難しいんだもん! そうだ、咲夜が作ってよ! そしたら美味しくて綺麗なのが出来るよねっ?」

フランの言葉に、レミリアは頭を抱えた。
そもそもの発端は昨日に遡る。昨日とは2月14日で、つまり「チョコの日」というやつが原因だった。「チョコの日とは、好きな人へチョコと共に想いを告げ る日」なんてパチュリーが言った途端、フランは目を輝かせ、「チョコの日したい!」と言い放った。その日の事にならないと言ったのだが、「どうしても!」 と言って聞かず、とうとうレミリア達が折れる事になったのだった。

「で、フランは誰にチョコを渡すつもりなのかしら」

既に自分の能力で知っているが、レミリアはしっかりとフランの口から聞きたかった。万が一、自分の能力に間違いがあるかもしれない。そういう、一種の期待を込めてのもだった。だが……

「魔理沙!」

元気な返答に、レミリアはガクリと肩を落とす。その様子を見ていた咲夜は、クスッと笑みを漏らした。

「良いじゃないですか、お嬢様。妹様が誰かを好きになるという事は、きっとご成長の証ですよ」
「相手が“あの”魔理沙でも?」
「……ええ」

「その間は一体何なの」と問い詰める気力も無いレミリアは、仕方が無いと腹を括り、フランの頭にポンと手を置いた。

「フランは、どうして魔理沙の事が好きなの?」
「あのね、魔理沙はね、わたしと遊んでくれるの。地下室にいた時から、ずっと。だからわたし、魔理沙が好きなの」

チクリ。胸に鋭い痛みが走る。

「魔理沙が遊んでくれた、ね……」

考え込むレミリア。咲夜は何も言わず、フランも空気が変わったのを読み取ったのか、きょろきょろと二人の顔を覗き込んでいる。

「どうしたの?」
「ううん、何でもないわ」

ふっ、と柔和な笑みを浮かべるレミリア。案外魔理沙みたいな奴の方がフランに合ってるのかも、なんて考えを胸にしまい、可愛い妹がチョコを作る姿を見守る。

「やっぱり、咲夜が作った方が良いよ。わたしが作ってもぐちゃぐちゃで、絶対美味しくないよっ」
「妹様、チョコの日にあげるチョコはご自分で作らなくては」
「だって、大好きな魔理沙にはキレイなチョコあげたいもんっ」

その必死な言葉に、咲夜は笑みをこぼさずにはいられなかった。

「妹様、見栄え味は二の次ですよ」
「どうして?」
「大 事なのは、『妹様がチョコを作った』事と、『妹様の愛情が篭もってる』という事です。例えば魔理沙が妹様からチョコを受け取った時、妹様の手作りを期待し ていたとしましょう。いざ蓋を開け、チョコが出てきました。しかし、それは私が作ったもので、妹様の手作りではありません。さて、妹様の手作りを期待して いた魔理沙はどう思いますか?」
「……多分、がっかりすると思う」

俯き、服の裾をぎゅっと握りしめるフラン。レミリアはその肩を抱くと、耳元で囁いた。

「なら、頑張ってチョコを作りましょう。見栄えも味も気にせず、ね?」
「……うんっ」

満開の花を咲かせるフランに、レミリアも咲夜も顔を綻ばせた。

「さぁ、ちゃちゃっと作って魔理沙に渡しましょう! ただでさえ1日遅れなのだから、急がなきゃね!」

レミリアの宣言を受け、キッチンに「おー!」という掛け声が響く。その後、暫く嬌声で場が埋め尽くされた。

   ¢


「お邪魔するぜ」
「あら、魔理沙じゃない」

読書をしていたアリスは本を閉じ、魔理沙に目を向ける。と、そこで異変に気付く。

「何、ニヤニヤして。変なの」
「な、何でもないんだぜっ」

頭の上にハテナを浮かべるアリスだったが、「丁度良かった」と戸棚を漁り始める。その様子に何を期待したのやら、魔理沙は椅子に腰かけ、ワクワクを抑えきれないのかせわしなくトントンとテーブルを指で叩いた。

「あったあった」
「あった!?」
「何なの、そんな大声出して。どうかしたの?」

そう言いながらも、いつもより子供っぽい魔理沙に頬がゆるむアリスは、テーブルに小さな箱を置いた。

「……何だ、これ」
「開けてみて」

言われた通り蓋を開けると、途端にカカオの良い匂いが辺りに広がった。

「コレ、もしかしてっ」
「チョコ。勿論私の手作り」

ほんのり朱が差した頬を隠すように押さえ、アリスは息を整える。

「あのね、魔理沙……そのー、えっと」
「サンキューアリス! 紅茶はあるか?」
「あ、えっと、うん。今淹れるね」

戸惑いつつ、読書中に飲もうと用意していた紅茶を、ティーカップに二つ注ぐ。

「はい、どうぞ」
「ありがとな」

満面の笑みにくらりとよろめくアリスだったが、そんな事気にも留めず、魔理沙は紅茶を啜りチョコをかじる。オレンジのフレーバーを混ぜてある特別な物だったにも関わらず、魔理沙は「美味い!」の一言で片付けた。

「それでね、魔理沙……」
「ん、何だ?」

手に付いたチョコを舐め取りながら、アリスの言葉に耳を傾ける魔理沙。

「ホントは昨日の内に渡そうと思ってたんだけど、ちょっと色々あって遅れちゃって……ごめんね」
「いや、気にしてないぜ。私も今日思い出したばっかりだし」
「そ、そう? なら良かった。でね、魔理沙……チョコの日って、どういう日か知ってる、よね?」
「どういう日? そりゃ、チョコが食べれる日だろ?」
「……え?」

魔理沙の自信満々な答えに、アリスはきょとんとした。

「霊夢んとこでお茶飲んだ時に思い出してさ。神社にそんな物無いって言われて、ひょっとしてアリスならって思ったんだ。そしたら思った通り、チョコが出てきた」
「あ、あれ……じゃあ、チョコの日は好きな人にチョコをあげる日って、知らなかったの?」
「へぇ、好きな人に…………え?」
「……あ」

一瞬、ほんの一瞬。天狗でもその瞬間をカメラに収める事が出来るだろうか疑問な速度で、アリスの顔が真っ赤に染まった。

「わっ、わわっ、私も昨日その事知ったの! で、でもこれは昨日準備したのだから別にそういう意味とかは無くてね! ほっ、ほんとよ!? ほんとなんだから!!」
「お、落ち着け! わかったから落ち着くんだアリス!」

必死に宥める魔理沙のお陰か、アリスは何とか落ち着いた。しかし、顔が真っ赤なのは最早デフォルトの事の様に治まらず、アリスは俯いたままだった。

「取り敢えず、今日はもう休め。な?」
「うん……」
「えっと……チョコ、美味かったぜ。それじゃ」

微妙な空気に耐えかねたのか、魔理沙はそそくさとアリスの家を後にした。

「……バカ」

小さな呟きは、人形以外には聞こえなかった。


   ¢


「ここにいたんですか、魔理沙」
「あれ、門番か? 何でこんなとこに?」
「お嬢様の使いです。魔理沙を紅魔館に招待しなさいってお達しがあって」
「追い返したり呼んだり、ホント気まぐれな奴らだな」

それはあんたですよ、と心の中で突っ込んだ美鈴は、魔理沙を伴って紅魔館へ向かった。

「遅かったわね」
「すみません、色々と探し回ったんですよ」

咲夜の鋭い視線に、美鈴は乾いた笑みを返す。無論咲夜は怒ってなどいないのだが、美鈴の反射的な行動によって厳しく見えた。

「で、何の用なんだ?」

別段忙しい訳ではないが、急かすように言葉を紡ぐ。これは、全力で追い返されたにもかかわらずその当人達から呼び戻されるという矛盾を消化しきれない魔理沙の、所謂プライドというやつがそうさせたのだった。

「お嬢様と妹様がお待ちよ。中へ入りなさい」
「……また何か異変でも起こすんじゃないだろうな」
「そのつもりは毛頭無いわ。まぁ、敢えて返すなら――」

「あなたがこの紅魔館に異変をもたらした、とでも言っておきましょうか」と、咲夜は楽しそうに言った。当の魔理沙は未だ何の事か分からず、首を傾げた。

「さ、中へ。案内するわ」
「はいよ」
「あれ、咲夜さん私は……」
「門番らしく立ってなさい」
「そんなぁ……」

親鳥に縋る雛の様に擦り寄る美鈴に、ナイフをちらつかせる。と、すぐに門の前で気を付けをした。

「――まぁ、これでも食べながら頑張んなさい」
「へっ?」

そっと、美鈴の耳元で咲夜が囁いた。しかし、振り返った時目にしたのは、館内へと魔理沙を誘う後ろ姿のみ。何が起こったのか理解しあぐねていると、ふと帽子の中に違和感を感じた。慌てて中を探ると、綺麗に梱包された箱。メッセージカードも添えてある。

「粋な事しますね、咲夜さん」

その箱を大事に握り締めた美鈴は、たまにはこんな日も良いかなと思うのであった。

「あ、待った! 私仲間はずれじゃないですか!」

悲痛な叫びは、寒空に響くばかりだった。


   ¢


「魔理沙ーっ!」
「っとと。なんだ、フランか。元気にしてたか?」
「もっちろん!」

屋敷に入った途端、紅が黒白の上に降ってきた。紅はフラン、白黒は魔理沙であり、つまるところ魔理沙にフランが後ろから覆いかぶさる格好となった。

「魔理沙、今日も綺麗な金髪だね」
「フランこそ、何だか良い匂いがするぜ」

二人とも互いを褒め、無垢な笑みを向け合う。そんな様子を見て、咲夜は疎外感を覚えた。

「妹様。それでは魔理沙が歩きにくいでしょうから、一度お離れになっては?」
「嫌。わたしは魔理沙におぶってもらうの」
「私は別にいいぜ。心配してくれてありがとな、咲夜」
「ならば良いのですが……」

フランの懐きっぷりを目の当たりにした咲夜は、フランの抱いている感情に嘘偽りも、勘違いさえも無いと言い切れる確信を得た。しかし、本当にこれでいいの だろうかという当然の疑問も残る。魔理沙は自分と同じ人間。しかし、妹様は吸血鬼。寿命の長さ、身体の丈夫さ。何から何まで差が出てしまうだろう。結果、 妹様はいつか魔理沙と永遠に離れ離れになるという事がほぼ決定づけられており、それはつまり、妹様が今まで通り、いや、今まで以上に気が触れてしまう可能 性を孕んでいるという事を暗に示している。

「どうしたの、咲夜。怖い顔してさ」
「妹様……」

目に映る、純真無垢なフランの顔。心配そうに覗き込むその献身的な姿に、咲夜は息を呑んだ。
――そもそも、妹様を軟禁せざるを得ない状況まで行かせてしまったのは私達の所為ではないだろうか。私達は精一杯、妹様に歩み寄るべきだったのではないだ ろうか。今、妹様と魔理沙があの様な状況になったのは、きっと魔理沙が妹様に歩み寄り、手を差し伸べたからではないだろうか。呪われた手の平に怖気づく事 も無く、しっかりと握ったからではないだろうか。

「何でもありませんよ。さ、行きましょう。お嬢様がお待ちですよ」

――ならば、私達も妹様に歩み寄れば良い。魔理沙という支えが無くなった時、また新たに支えられる人物がいれば良い。そっと、咲夜はフランに手を差し伸べた。

「咲夜……?」
「手を、繋ぎましょうか」
「え、うん?」

その意図が分からぬまま、フランはそっと手を伸ばし、咲夜に触れる。瞬間、咲夜はぎゅっと、もう離すまいと固く、しかしながらちょっと力を込めれば割れてしまうガラス細工を扱うように、そっと、手を握った。

「あったかい」
「……メイド長ですから、当然です」
「わけわかんないぜ、咲夜。照れてんのか?」

魔理沙の指摘に、瀟洒なメイドは静かに頬を赤らめる。しかし、それは誰にも悟られる事は無かった。

「……なるほどね」

ただ、一人を除いて。



   ¢



「お待たせ致しました、お嬢様」
「ありがとう、咲夜」

ホールへと誘われた魔理沙は、いつもより狭く感じる内部に疑問符が浮かびっぱなしだった。

「この屋敷はね、咲夜が空間を弄ってるお陰で広く感じる事が出来るの。普段はそうしているのだけど、今回は客人が一人だから広くする必要が無いのよ」
「なるほど、エコってやつだな」
「……まぁ、それはどうでもいいのだけれど」

玉座の様な椅子に座っているレミリアは、立ち上がりコツコツと靴音を響かせて魔理沙の前へとやって来た。

「それで、貴女は何故此処に呼ばれたか分かっているのかしら?」
「さぁね? 贄にされるってんなら、丁重にお断りして帰らせてもらうぜ」
「ふふっ、大丈夫よ。取って食おうって訳じゃないから」

そう言ってレミリアは、咲夜に目配せをする。と、即座にテーブルと椅子が用意され、三人はそれに腰かけた。咲夜は「お仕えする身ですので」と、レミリアの脇に控えた。

「お食事会か? なら遠慮せずに頂くぜ」
「まぁ、遠くは無いわね。ほらフラン、渡す物があるんでしょ?」
「あ、えっと、う、うん……」

どぎまぎしながら力無い返答をするフラン。この子も緊張する事があるのね、とレミリアは姉らしく柔和な笑みを浮かべた。

「何だフラン、私に渡す物って?」
「その、えっと、んと……」

後ろ手に何かを隠しているのは魔理沙にも分かった。しかし、何なのかまでは見当がつかない。そもそも魔理沙は、フランから何かを貰う理由が無かった。自分 はたまに来てフランと遊んであげたりする程度で、何か特別な事をした覚えも無い。何かを貸した覚えも無ければ、別段誕生日という訳でもない。――と、ここ で今までの出来事が魔理沙の中でフラッシュバックした。

「……まさか、またチョコか?」

言ってから「しまった」と口を塞ぐ魔理沙だったが、いくら何でも過ぎてしまった時は戻せない。

「え……また、って……?」
「いや、その、えっと……」

ドキドキも、心配も、楽しみの何もかもを奪われてしまったに等しいフランは、手に持っていた包みをぽとり、と地面へ落としてしまった。

「チョ コの日って聞いた時、わたしの中に『これだっ』て、電流が走ったの。それから、魔理沙に喜んで貰いたい一心で、咲夜とお姉様にいろいろ教わって……投げだ したくなったけど、咲夜に『愛情が篭もってる手作りじゃないと』って言われて頑張って。包むのも、わたしがやったんだよ? 場所も、お姉様に無理言って開 けて貰って。それなのに魔理沙、『また』って……」
「それはだな、言葉のあやってやつで……」
「わたしのチョコ、いらないんでしょっ! こんな、こんな形の悪いのなんかっ、いらないんでしょっ!? もう、チョコ見るのはうんざりなんでしょっ!! こんなものっ、こんなものっ!!」

ぐしゃ、ぐしゃっ。無残に踏み潰される包み。レミリアはそれをただひたすら見つめ、咲夜は声を掛けあぐねている。フランは尚も包みを踏み続け、ふと、思い出した様に包みに向かって手をかざした。

「壊レちゃエ」

何かを探る動作をした後、それを包み込むように拳を握ったフランは、ぎゅっと力を込め――る直前で、魔理沙がその腕を掴んでいた。

「やめな、フラン」
「……何で邪魔するの?」
「それ、私に渡すつもりだったんだろ? なら、それは私のだ。壊すなんてさせないぜ」

ひょいと包みを拾い上げる魔理沙。ぐしゃぐしゃの包装を手でそっと直すが、中の物は無事ではないだろう。

「でも魔理沙、わたしのチョコいらないって……」
「言ってない。確かに『またチョコか』とは言ったけど、ただ口が滑っただけだって」
「でも、もう誰かにチョコ貰ったからそう言ったんでしょ?」
「ん、それとこれは別だ。何たってこのチョコは……その、だな……」

明後日を向き言葉を詰まらせる魔理沙に、フランは小首をかしげた。溜まった涙が反動で零れ落ちるのを見た魔理沙は、「あぁ、もう!」とフランの肩を抱き、真正面から向き合った。

「このチョコは、私が本当に欲しかったチョコなんだってば!」
「っ!」

――真っ赤。スカーレットも顔負けの紅に染まる魔理沙の頬。しかし本家も負けず劣らず。フランの頬も同じような色をしていた。

「……それって?」
「い、言わないと駄目か?」
「言って。魔理沙の口から聞きたいの」

そう言って懇願するフランに負けた魔理沙は、フランの耳元でそっと呟いた。

「私も好きだぜ、フラン」
「魔理沙っ!」

半ば突撃の様なハグ。人間の力では到底支えきれず、魔理沙はそのまま押し倒される格好となった。

「いたた……危ないって、フラン」

そう言いつつも自らではなく包みを庇って倒れたあたり、フランへの愛情が感じられた。フランもそれに気付いたのか、更に強く抱擁をする。

「咲夜、どうやら私達はお邪魔なようね」
「……そうですね」

何故か頬を染めているメイドを引き連れ、レミリアはホールを後にした。

「私達はあの子に対して、何か勘違いしていたのかしら」
「……どうでしょうか」
「少なくとも、今のあの子はどこからどう見ても恋する乙女だったわ。一体、魔理沙にどんな魔法をかけられたのかしらね」

ふふっ、と楽しそうに笑うレミリアの目は、確かに妹を想う姉の目だった。その様子を見た咲夜は、ふと小さめな声で呟いた。

「私も魔法使いだったら……」
「何を考えているのかしら、咲夜?」
「い、いえっ! 何でも御座いません! 決してお嬢様といかがわしい関係になろうとなど……はっ!」
「……咲夜」
「な、何でしょう?」
「今の、聞かなかった事にするわ」
「……はい」

コツ、コツ。二人分の足音は、屋敷の奥へと消えていった。



   ¢



「魔理沙」
「なんだ、フラン?」
「えへへ、何でもなーい」

一方、バカップルを通り越してもはや殺意を芽生えさせる程度の能力を発揮している二人は、少し狭いホールの隅で、肩を寄せ合いながら座っていた。

「そうだ、チョコ食べないと。せっかく貰ったんだしな」
「あ、でもそれ……」

フランが制止する間も無く、魔理沙は包みを開いた。――が、二人の目に飛び込んだのは、粉々のチョコではなかった。少しいびつで、それでもフランの頑張りが見える、手作りのチョコだった。

「何で、粉々になってないの?」
「……メイド長め、気が利きすぎてもはや気持ち悪いぜ」

悪態をつきつつもそっと、心の中で咲夜に感謝の言葉を述べた魔理沙は、そのいびつなちょこをつまみ、一口かじる。

「……ど、どう? 味は?」
「うーん」

咲夜はああ言ってたけど、現実なんてこんなものだ。フランはがっくりと項垂れる。が、魔理沙は表情を一変させ、フランに満面の笑みを向けた。

「美味いっ! チョコ饅頭よりも、オレンジ風味のチョコよりも、断然フランのが美味いぜ!」
「ほんとっ!?」
「あぁ、勿論だ」

いつも真っ直ぐな魔理沙の性格が功を奏したようで、フランは魔理沙の素直な喜びに満足げな表情を浮かべた。

「今度、私にも作り方教えてくれよな?」
「うん、一緒に作ろっ」

魔理沙はチョコをもう一かじりする。

「やっぱり、美味い」
「だって、わたしの愛情たっぷりだもん」
「そっか、そりゃそうだな」

フランの高言に魔理沙がのっかり、二人して笑い合う。
人と吸血鬼。違いがあるのは当然である。だから、今だけは――

「魔理沙」
「ん?」
「好き」
「私もだぜ」
「ちゃんと言って」
「……好き、だぜ」
「わたしもっ」

今だけは、この幸せを――いつか溶けてしまうチョコのような、甘い幸せを――……


―了―




お粗末様でした。
そして、お目汚し失礼。
最後まで読んでくれた方には、感謝をば。
好評だったら他にも何か痛い痛い石入りの雪は投げちゃ痛い痛い
2月16日未明   わんこ
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