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犬が走り書きしたSSを置いたり、たまに何か書くそうです。
じぶん
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かうんたー
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 ※注意※
これは東方二次創作です。おおよそ原作に則っていますが、解釈は作者独自であったり、希望が反映されている場合があります。
不快感を覚える、或いは覚える予定だという方は即座にページバックして綺麗な画像や音楽、弾幕に癒されてください。
「大丈夫!」という方は、拙い物ですが本編へどうぞ。

 眉をひそめ悪態をつきながら、巫女は袖を振り乱しせかせかと雨戸を閉めて回っていた。普段ならば溜め息を吐きだし、天候など誰しもがあずかり知らぬ所と諦めるのだが……今回そうすんなりと腑に落ちないのは、「この天候が何かの異変かもしれない」という霊夢の内に湧き出た考えがあったからだろう。事実、降り出す前振りも何も無い雨はたまたま通り掛かった雨雲の仕業と言うより、誰かが意図的に雨雲を神社の上に作り出したと表現した方が的確だった。

「何なのよ、この雨!」

雨戸を閉め終えた霊夢は年季の入ったボロ天井、もとい天を覆う雨雲を睨み怒鳴り散らす。それで雨を降らすのを自重してくれる訳では無いのだが、そうする他鬱憤を晴らす手立てが無かったのだ。勿論それで霊夢の気が治まるはずもない。

「誰の仕業かしらね……」

頭の中で色々な人物の顔を巡らせる。真っ先に魔理沙の顔が浮かんだが、腐れ縁補正で一番に出てきただけなので除外。次にババ――紫の顔が浮かぶ。境界をいじり雲を移動させるなんて朝飯前なのだろうが、局地的に雨を降らせた所で何も面白い事は起きないだろう。と、なると……

「誰なんだろ」

心当たりがあり過ぎる為に考えを一つに絞る事は不可能と判断した霊夢は、とうに怒りが治まっているのを知り、愚痴をたれながらも居間へ向かう。
居間の中央に置かれた円卓の上には縁側で落ち着きながら飲もうとした緑茶が置いてあり、霊夢は座布団に腰を下ろし湯飲みに手を掛ける。が、既に温かさは失われており、再び憤りを覚えるのだった。
と、そこへバシャバシャと外から水を踏み散らかして駆ける音が響き、次いで玄関の戸を乱暴に叩く音が耳に飛び込んだ。

「霊夢っ! 霊夢ーっ!」
「五月蝿いわね……」

冷めた緑茶を一口啜った霊夢は、面倒臭そうな訪問者を迎え入れるべく玄関へ向かった。

「霊夢ー!」
「はいはい、今開けるわよっと」

ガンガンと叩かれる戸を開くと、霊夢の視界には不格好にねじれた角が2本映った。そこから下へ視線をずらすと、水を吸って艶やかに照り返す薄茶色のロングヘアーを張り付け、いつもみたいに無邪気に笑う鬼の顔があった。

「やあやあ霊夢、ご息災かな?」
「でなきゃあんたの応対なんかしないわよ。で、慌ててたみたいだけど何しに来たの?」
「急に雨が降り出してね。ちょっと霊夢んとこで雨宿りさせてもらおうと思ってさ」

ぽたぽたと雨に打たれた衣服から滴る水が、萃香が立つ地面を湿らす。しょうがない、と霊夢は一旦奥へ引っ込み、タオルを手に戻ってきた。

「あーもう、びしょびしょじゃない。ほら、拭いてあげるからここ座んなさい」
「へへっ、ありがとっ」

萃香は言われた通り玄関の上がり框《かまち》に腰かけ、靴を脱ぎ素足を晒し、所在なさげにぶらつかせた。
霊夢はぼやきながらも萃香の薄茶色の長い髪を丁寧に拭き上げ、服の水分は別のタオルで軽く吸い取ってやる。最後に萃香の身体をこちらに向かせ、顔をごしごしと拭く。「うぶっ」と息を詰まらせるが、そんな事はお構いなしにごしごしごしごしと拭く。

「よし、いいわね」
「霊夢ー、ちょっとそのタオルにお……何でもない。何でもないから、声を出さずに『霊符』と呟くのはやめてくれないか?」
「なら文句言わないでよ。こっちだって、雨なんか降らなきゃちゃんと外に干すわ」
「あぁ、部屋干し……」

むすっとする霊夢に謝りつつ、萃香は壁越しに聞こえる雨音に耳を澄ませた。さっきよりも勢いを増したのか、ざあざあと地を打ち家屋を打つ激しい音が聴こえる。雨宿りが長引くかも、という考えに至った所で、人知れず萃香は口の端をゆるく吊り上げた。

「流石、梅雨の時期だね」
「けど今日のは絶対人為的……いや、妖為的? とにかく不自然よ。だって、さっきまで快晴だったのにいきなりこうも雨が降るなんて」

 萃香が言う通り今は梅雨の季節。しかし、今日は幸いにも五月晴れだったのだ。霊夢がいつも以上に腹を立てていたのは、折角お天道様が顔を出してくれたのを邪魔されたからと言うのも原因の一因を担っている。まあ、今となっては済んだ事と諦めているようだが。

「女心と何とかは変わりやすいって言うじゃないか」
「それは秋の空よ。それより、あんた着替え無いと風邪ひくんじゃないの」
「鬼は風邪なんか……っくしょん」
「風邪なんか、何だって?」
「うー」

悔しさと恥ずかしさからか、或いは本当に風邪を引いたのか、萃香は真っ赤な顔で霊夢に不満をぶつける。が、当の霊夢は萃香の面倒を見るのが楽しいのか、いそいそと居間へ向かい手招きする。

「ほら、こっち来なさい」
「いや、遠慮するよ。床汚れるし、第一わたしが着れる服なんかあるのかい?」
「私が小さい頃着てた巫女服があるわ」
「……脇は?」
「あんたの服、袖無いでしょ。今更気にしないの」
「う、うーん……まあ、今回はお言葉に甘えてやろうじゃないか」

折れてやった、と言わんばかりに口を尖らせる萃香だったが、内心霊夢にこうやって気を回されるのを嬉しいと思っており、同時に自分の起こした「小さな異変」は順調に事を運んでいるという事に満足していた。

「早く来なさいよー」
「今行くってばー」

ひょっこり顔を覗かせる霊夢に弾む声で応え、萃香はとたとたと廊下を駆けた。








「ぴったりだ」
「……腑に落ちないけど、丁度いいなら良かった」

紅白の衣装を纏った小鬼は、ぎこちなさそうに一回転してみせる。ふわりと舞う白い袖と薄茶色の髪、それと三種の分銅。いくら小さいと言えども鬼は鬼。様になっている格好は、可憐と表現しても差し支えない出で立ちだった。

「鬼が巫女装束とは、得も言われぬ不釣り合い感があるんだけど」
「でも可愛いわよ。ちまちましてて」
「そ、そう……?」

ええ、と笑う霊夢は、急須と湯飲みを円卓へ置き座布団を二人分用意する。

「今お茶淹れるから」
「ん、そこまで気を遣わなくても」
「お酒飲むつもりなんでしょ? 駄目よ。こう言う時は温かい飲み物で、体の芯から暖かくならなきゃ」
「耳に痛い……それじゃ、遠慮なく貰うよ」

そ、と素っ気なく応えた霊夢は慣れた手つきで急須から湯飲みへと緑茶を注ぐ。深緑の液体は見ただけでその味を想像させ、立ち上る湯気は口にせずとも熱さを感じさせる。

「霊夢」
「何よ」
「緑茶と言うのは普通、熱湯で淹れる物じゃ無いんでしょ? どう見てもこれは熱すぎると思うんだけど」
「私はあつーいお茶が飲みたいの」
「ふーん」

今だ湯気が衰えず立ち上る緑茶。湯飲みも熱くなっているのだろうが、流石に鬼が火傷をする筈もなく事も無げに萃香は緑茶を啜る。

「ん、美味い」
「そう? なら良かったわ」

霊夢はそう言って自分の緑茶を啜る。

「あつっ」
「……霊夢?」

先程熱いお茶が飲みたいと言った霊夢が、その希望通りになったにも関わらず恨めしそうに湯飲みを睨んでいる。萃香はすぐに霊夢が嘘をついたんだと見抜いた。

「霊夢、もしかして」
「勢い付きすぎただけよ。気にしないで」

今度は慎重に口へ運ぶ霊夢を見て、萃香は疑いの眼差しを向けつつも、そう言う事ならと深く追及しなかった。ただ、萃香は心の奥底で「自分の為にお茶を熱くしたのではないか」という希望的観測をしていた。

「雨、大分落ち着いたみたいね」

打ちつける雨音が弱くなったのを感じ、縁側へと向かい雨戸を開けた。その予想通り勢いは弱まっている様で、しかしながら雨の一粒一粒が重たげに見える。ぱらぱらと言うよりはしとしとだろうか、と霊夢は訳も無く分析をした。

「私、雨の匂い嫌いじゃ無いわ」
「へぇー、意外だね」
「雨が降るのは嫌いだけど、この水気の多い空気の匂いは、嗅いでると落ち着くのよ」

そう言って霊夢は縁側に腰を降ろし、足を外へ放り出す。そのままぶらぶらと宙に漂わせると、雫が甲で跳ねた。

「そっか、なら良かったよ」
「……良かった?」

安堵したような声に、霊夢はギロリと瞳を向ける。そこには明後日の方を向き、白々しく口笛を吹く萃香の姿があった。

「ねえ、良かったってどう意味かしら?」
「い、いやあ、雨が嫌いじゃ無くて良かったって意味だよー」
「萃香」
「……ごめんなさい」

自分が嘘を嫌っているのは周知の事実であり、それに、霊夢に気付かれた時点でもう言い逃れができないと分かっていたので、萃香は素直に頭を下げた。

「分かってると思うけど、わたしが博麗神社の上に雨雲を集めて雨を降らせたんだ。怒られるのは覚悟の上だよ」
「……別に怒らないわ。ただ、理由が聞きたいの。どうして雨なんか降らせたの?」
「それは、そのー……れ、霊夢んとこにお邪魔する為、だよ」
「どういう意味?」

小首を傾げる霊夢。その仕草にどきっ、とする萃香だったが、紅くなる顔を必死に宥め、自分の計画について語った。

「わ、わたし、霊夢が気に入ったんだ! あの異変を起こした時にずっと見てたんだけど、霊夢は正直だし、何だかんだ言って優しいし。だから、仲良くなりたくて……でも、霊夢んとこに遊びに行く理由がわたしには無かったから……だから、その理由が欲しかったんだ……」

尻すぼみ。徐々に小さくなり、震える声を必死に絞り出した萃香は、拳を握り締めて俯いた。

「霊夢は人間で、自分は鬼。昔の様な信頼関係も無いし、霊夢にはわたしと仲良くする義理も無い。だからわたしは、とにかく仲良くなる切っ掛けが欲しかったんだ。そこで、雨を降らせ雨宿りと言う名目で霊夢に近付く計画を立てた」
「で、その計画は成功し私の家を訪ねる事が出来た、と……」

霊夢は、視線を空へ向けた。未だ止まない雨が降り注ぎ、地や家屋を濡らす。

「この雨で誰かが困るかも、なんて考えはなかったの?」
「――っ!」

萃香はハッと顔を上げ、霊夢を見た。

「今日は天気が良かったわ。もし私が洗濯物を干してたり、外で掃除をしてたりしたらどうする?もしくは、たまたま誰かがこの神社に遊びに来てたかもしれないし、参拝に来てたかもしれない。そんな時、降る筈の無い雨が降ったら困るのは誰?」
「それ、は……」
「聡明な鬼の割に、そこまで気が回らなかったのね」

……そう呟く霊夢の瞳は、優しい光を湛えていた。口元には薄ら笑みを浮かべており、怒っているのでは無いと萃香でも分かった。

「妖怪付き合いは得意でも、人付き合いは苦手の様ね。今回の事で懲りたなら、次からは能力を使わないで、ちゃんと自分の口で仲良くなりたいと意思表示しなさい。行動で示すよりも難しくて根気が必要だけれども、ちょっとやそっとじゃ揺るがない縁を結べると思うわ」
「霊夢……」

ぐすっ、と鼻をすする音が響いた。萃香の目には薄らと光るものがあり、それに気付くと慌てて装束の袖で拭う。しかし霊夢にはお見通しの様で、「鬼の目にもって奴ね」なんて軽口を叩かれた。

「ち、違うよっ。泣いてないもん」
「鬼は嘘をつかないんじゃなかったっけ?」
「わたしは変わった鬼だから、嘘をつけるの」

今の発言で萃香は、自分自身で嘘をついた事を認めた事になるのだが、それに気付かず涙目のまま胸を張った。霊夢は気付いている用で、くすくすと小さく笑みを漏らす。

「むー、何笑ってるんだよー」
「萃香が可愛いからよ」
「なっ!?」

卑怯だ! なんて喚く自分よりも長生きな小鬼を宥め、霊夢は自分の横をぽんぽんと叩く。

「こっちに来なさい」
「……うん」

とたとたと駆け寄る萃香は、示された場所に腰を下ろした。霊夢がしたように足を外へ放り出すと、同じようにぴちゃりと冷たい雫が足の甲で跳ねる。

「あのさ、霊夢」
「何?」
「……仲良く、してくれる?」
「どうしてこう、私は色んな妖怪に懐かれるのかしらね」
「めっ、迷惑だった?」

しかし、萃香の予想とは裏腹に、霊夢は笑顔で答えた。

「何だろうと受け入れる。それが博霊の巫女よ」

萃香は途端に目を輝かせ、霊夢の手を取った。

「ありがとう、霊夢!」
「ん、どういたしまして」

特に何もしていないのだけれど、と照れ隠しの様に呟いた霊夢は、ふと雨音がしなくなっていた事に気付いた。

「あれ、雨止んでる」
「わたしの能力で雲を散らしたからね。あ、それとこれはお詫びの印」

そう言って萃香が指差す空には、綺麗な七色の虹が掛っていた。思わず「綺麗……」と声が漏れる霊夢に、萃香は嬉しそうに笑う。

「今度は普通に遊びに来るよ」
「そうしなさい。また濡れて来られても困るからね」
「でも、霊夢の事だからわたしが風邪引いたら看病してくれるんでしょ?」
「鬼は風邪を引かないんじゃなかったっけ?」

的確な反論に言葉を詰まらせる萃香だったが、「ま、もし風邪を引いたら看てやらん事も無いわ」なんて呟く霊夢に頬が緩んだ。
鬼は人を攫い、それを止めようと人間は勝負を挑む。鬼が勝てば人は攫われ、人間が勝てば宝を授ける。それはある種の信頼関係であった。しかし今の萃香には、それはまやかしの信頼であったという考えが浮かんでいた。「行動ではなく、言葉で伝える」という方法を取っていれば、今でも鬼は地上に存在していたのではないだろうか、と。

「霊夢」
「何よ?」
「…………大好き」
「いっ、いきなり何言ってんのよっ?」

自分の言葉で顔を真っ赤にさせて照れる霊夢が、たまらなく愛しく感じる。「意思を言葉にする事は良い事だね」、と萃香は柔和な笑みを浮かべ、縁側から見える幻想郷を臨む。霊夢も真っ赤な顔でぶつぶつ愚痴りながら、萃香と同じように景色へ目を向ける。

「また、人間と信頼関係を結べるかな」
「……大丈夫よ、きっと」

重なる互いの手を求め合い、掴む。そこには確かな信頼関係があり、小さな鬼の小さな一歩は、今ここに踏み出されたのだった。
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